2013年6月号
「国産材で家づくり」林業を生業とする私にとってはうれしい事である。
同時に、この言葉の裏に利用すべき森林資源が有り余り困っているから国産材を使おうという思いが根本にある様に感じられるが、国産材と外材の線引きは一般的な施主はあまり重要視していないと感じる。彼らが大事なのは、木の強度や見た目である。そんな中で昨今、製品となっている木材は、JISやJAS規格、その他認証制度を通っており、品質は均一化され強度も確保されているため、国産材は施主や設計士の木の家づくりのデザイン上の観点から選ばれるのが一般的であると思われる。さらに私は、デザインとしての木の良さだけでなく、物語を紡ぐことが出来るという木の良さがあると思う。
今後、私は家を建てる予定だが、住空間としては、何事も人との関わりが重要だと私は思うため、プライベートな空間だけでなく、土間に薪ストーブと椅子を置きざっくばらんな会話や家自慢が出来るような暖かみがある空間を合わせて作り、家族だけでなく多くの人との交流の場となる家づくりをし、色々な物語を紡いでいきたい。
その空間の中に、所有山林の木を使用することで、林業という仕事に誇りを持ち、木と共に生きているということを表現したい。さらに、「国産材で家づくり」という事を実際に経験し、林業を行う上での大局観を養い、自らを成長させる。そうする事で自分の価値観を確立する。
所有山林に入り、山の境を回る中で色々な木に出会った。杉、ヒノキはもちろんであるが、突如沢に栃、尾根筋に高野槇など現れると、家づくりに使いたいと思う。例えば、写真の栃は元木で、テーブルを作りたいし、写真の高野槇で洗面台を作りたい。
山林を所有している方にとって、時間や思いの込め方の一つの例に所有林の木の利用という選択肢があるのではないだろうか。相続はしたけれど一度も現地を見たことがない山は無いだろうか。その山から、一本でも家づくりに使う事は出来ないだろうか。昔々に曾祖父が思いを込めて植えた木1本を、自分の家という形にし、息子と未来に向かって暮らす、この事実が先祖への感謝の思いになり、お墓に手を合わせ、子供との時間を大切にしようと思わせるだろう。
林経協のホームページのトップに森林財産復活への道と書いてあるが、山に価値を見出し財産とするのは所有者の考え方一つであると思う。森林資源が潤沢にあり、今だからこそ、森林所有者から森林利用者となり、物語のある家づくりが出来ると思う。時間と思いを込め物語を作れる、そういう人に私はなりたい。