一般社団法人 岐阜県林業経営者協会

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観天望気

 観天望気(かんてんぼうき)とは、自然現象や生物の行動の様子などから天気を予想すること。またその元となる条件と結論を述べた天気のことわざのような伝承。古来より山や海の仕事に携わる人々が経験的に体得し使ってきた。もちろん俗説のようなものもあり、公式な天気予報に代替できるものではないが、湿度や雲の構成などから正確性が証明できるものも多い。海や山での天候の急激な変化や、局地的な気象現象をつかむための補完手段として知っておいたほうが良いものもある。このコーナーでは主に岐阜県内で言い伝えられている観天望気を紹介するので山での作業などに参考にしていただきたい。

観天望気7

アシナガ蜂が低い所に巣を作るとその年は台風が多い(美並、八幡)

2ヶ月ぶりの観天望気である。いよいよ本格的な台風シーズンを迎えるので台風に関する諺をご紹介する。今回は郡上の諺であるが、アシナガ蜂に限らず全般的な蜂に関してならば全国的によく聞く諺である。風の通りの良い高い所に巣があると、大風の時には吹き飛ばされてしまうので、蜂は本能的に台風の多そうな年は、風があまり吹き抜けない軒下の低い所に巣を掛けるのだ、という内容らしい。

なぜ、台風が襲来する何週間、何カ月も前にそれが予測できるのかは不明である。ただし、ある地方では「高い所に巣を作ると・・・」というものもあり、全く正反対なので今回も科学的根拠があるのか疑わしい。穿った見方をすれば、風で大半の巣が吹き飛ばされてしまい、風が遮られた低い場所の巣だけが残ったため、結果的にそれを見た当時の人は、あたかも蜂は台風襲来を予測して、最初から低い場所に巣を作る予知能力が備わっている、と思ったのかもしれない。

ただ毎回科学的根拠に乏しい、とばかり言っているのも面白くない。大地震の前には動物が異常行動を起こす現象が見られるように、人間には予知できない何かを持っているのかもしれない。この原稿を書いている7月30日現在、二つの台風が日本に近づいているが、どうやら岐阜近辺には上陸はしないようだ。今年、皆さんの近くの蜂の巣はどの高さにありますか?

観天望気6

向山に朝霧立てば晴れ(揖斐川町)

今回は、超ローカルな観天望気を紹介する。いずれも山を見て天気を判断する諺だ。

まず最初は揖斐川町春日在住の森善照さんからいただいたものである。写真は揖斐川町春日六合の茶園で、正面の山(向山-ムカヤマ-)に朝霧が立ち込めるているとその日は晴れるといわれている。写真の茶園を下って行くと小さな集落があり、粕川が流れている。森さんを含むそこの住民は朝霧を観たら安心して農作業、山仕事に出かけるそうだ。

因みにお茶どころは霧が立ち込めると言われるが、春日も一年を通して降水量が多く霧がよく発生する。おいしいお茶が生まれるには、すがすがしい空気と冷涼な気象、昼夜間の温度が大きいことが条件で、当地は森林に立ちこめる霧が発生しやすいため茶葉をやさしく包み自然が遮光を助け、良質なお茶ができる環境に適していると言われている。

お笠置晴れて恵那ぐもり(恵那・中津川地方)

二番目は、可児市在住の谷藤利雄さんからご紹介いただいた。二つの山に雲がかかっているかどうかを見れば、1日~半日先の短期的な天気がわかるという諺である。

『お笠置』とは恵那地方の北西にある笠置山(1,128m)のことで、『恵那』は東にある恵那山(2,190m)を指す。恵那山が曇っていても、笠置山のほうが晴れていれば明日は晴れる、という内容である。

日本では天気は西から東へ移り変わることが多く、特に移動性高気圧と温帯低気圧が交互にやってくる春と秋には、西の笠置山が晴れてくれば翌日の恵那地方は晴れることが多い、という明確な天気予報ができる観天望気と言え、当る確率もかなり高いらしい。『オカサギハレテエナグモリ』という語呂も七五調で語感が良く覚えやすい。

観天望気5

コブシの花が多く咲くときは豊作(全国)

4月上旬から中旬にかけて山を一面白く飾る花がある。コブシの花、と言いたいところだが、実は岐阜県辺りではコブシではなく大抵、タムシバである。タムシバは葉を噛むと甘い味がするから『噛む柴』が訛ってこの名になったという。どちらもホオノキと同じモクレン科で花もコブシそっくりなので間違えやすいが、花の下に葉が1枚付いていればコブシなので近づけば区別できる。観天望気なので植物の見分け方などのウンチクはこの程度にしておいて、豊作との関連について述べよう。と言っても、また今回も科学的根拠に乏しい内容で申し訳ない。

昨年は気候条件が植物に適していたのか、このタムシバに限らず他の樹木の花も本当に多く咲いた。花が咲けば当然実がなるので豊作になる。数年に一度と言われるブナの実も昨年は大当りの年だった。そのためか昨年はクマの出没騒ぎも少なかった。

『豊作』という言葉は大抵、田畑の作物のことを指すだろうが、当然それらも植物であるから樹木と同様そのような好条件であれば豊作になっただろうと想像できる。昔、田植えはこのコブシの花(しつこいようだがタムシバ)が山を覆うようになった頃に始めたと言われる。まだ新緑が出ていない山肌にはこの花はかなり目立つため、豊作の祈りを込めながらこれを豊凶の指標の一つにしたのではないだろうか。

ちなみに昨年のコメの作況指数は101で平年並みだったので凶作ではないが、大豊作とも言えなかったので、コメの豊作との関連性があるとは残念ながら断言できない。

ただもう一つこれに関連した諺がある。

コブシの花が多く咲く年は雷(雨)が多い(全国)

 確かに昨年は全国的に集中豪雨に見舞われた年だった。岐阜県も8月から9月にかけ大雨で山林もかなりの被害が発生したのは記憶に新しい。雷も多く発生し、私の会社のパソコンも2回も雷にやられた。

この花と雷や集中豪雨は因果関係はないと思うが、雷と豊作とは科学的な因果関係があるらしい。雷はプラズマの一種だが、放電の際、プラズマとなった大気中の窒素が酸素や土中のリンなどと反応して窒素酸化物やリン酸化合物となって土中に蓄えられる。それらはすなわち化学肥料を撒くのと同じこととなるため豊作になるそうで、雷が落ちた田からは収穫量も劇的に増えた例もあるとのこと。また雷が多い年は、気温が高く日照量や降水量も多いことから豊作になるという説もある。

観天望気4

冬の夜、遠くの汽笛が聞こえると晴れ(下呂市金山町 他)

昔、高山線でSLがまだ走っていた頃、寒い冬の夜に、何キロも遠く離れた汽笛の音が(よく聞こえる時は線路のジョイントの音も)聞こえることがあったが、そのような夜や翌日は晴れのことが多かった。 

これは、晴天の夜や朝に放射冷却が起こって気温が逆転すると、地面近くの下層に冷気流がたまり、その上には暖かい空気の層ができる。冷気流の中は空気の密度が高いので、音は横によく伝わる。これが冬の夜や朝に遠くの物音がよく響いてくる原因であるらしい。今回の観天望気は科学的根拠が説明できそうだ。

春秋、木曽川の水音近くに聞こえるときは雨近し(可児市 他)

これは先程の反対で昼に遠くの物音が近くに聞こえるときは、まもなく雨になるという。

遠くの物音がよく聞こえるとその後の天気が崩れる現象は、昼間の上下の温度に関係しているそうだ。晴れた日には、地表と上層とは気温差が大きく温度が下がる率が大きい。これに比べて曇天の日はその率が小さくなり、さらに雨模様の天気で日射しがほとんどないような時には、さらに減率は小さくなるので、音は横方向への伝搬が敏感になる。

難しい言葉ばかり並んだが、簡単に言えば、低気圧が近づくと雲の層が厚くなって雨が降り出す前には、遠くの物音がよく聞こえるようになり、まもなく雨になるということらしい。

観天望気3

月夜に大雪なし。(岐阜県、長野県)

──文字通り「月夜には大雪にならない」という意味である。満月の時期にサンゴが産卵するなど生命活動と月の動きが関係しているのはよく知られているが、気象にも関連性があるのだろうか。海洋と気象とは密接に関係があるのだから潮の干満のように月の引力により気象が影響を受けることはあるのかもしれない。

しかし大雪の原因には強い冬型気圧配置であるとか南岸低気圧の接近とか様々な要因があり、一概に「月夜だから雪は降らない」というのは説得性に欠けるような気がする。そこでこんな解釈はどうであろうか?

新月の時は別として、例え月が出ていても雲が厚ければ当然月は見えないし雲が厚いということはそれだけ雪雲が発達している証である。逆に、雲が薄ければ雪も弱いし月明かりも雲を通して見えることになる。

という訳で大雪と月齢とは関係がなく、月が見えるということは、すなわち雪雲が少なく降雪量も少ない、ということにならないだろうか?

もし他にこのことわざの根拠を知っている方がおられれば是非お知らせ願いたい。

観天望気2

カメムシが家の中に多く入ってくると寒い冬。逆に、家の中に入ってこないときは暖冬。

──これも岐阜県に限らず各地でよく聞く言い伝えだが、地方によっては「カメムシが多い年は雪が多い」というのもよく聞く。カメムシの発生量と積雪量の因果関係を調査した記録があるが、それによると関係があるとも無いとも言え、またカメムシは種類がかなり多く、どのカメムシを指しているのかも定かではないため実のところよくわからないようだ。

観天望気1

朴葉が裏返ると積雪が多い。(飛騨、明宝、加子母)

──ホオノキの葉は日本の植物の中でも特に大きく、枯れて落ちた葉は裏が真っ白なため林地内では遠くからでもよく目立つ。これは推測であるが、気温によって葉脈が表側と裏側では収縮率が変わるのであろうか。

 

寒い年は、葉の表側の収縮が大きくなってカップ状に反るため地面に対して不安定な状態になって風などでひっくり返って裏側が上になるものが例年より多くなるのではないだろうか?